「イラストを依頼したいけれど、内容はどうやって伝えればいいんだろう」
「ラフが届いたけど、何を見ればいいんだろう」
「絵を見る目なんてないんだけど……」
「プロにダメ出ししていいの?気が引ける……」
イラスト制作を依頼するときに、多くの方が感じる不安です。
特に初めての依頼ならなおさら。
実は、その気持ちは私にも想像できます。
私も逆の立場なら、きっと同じように悩むと思います。
私はイラストレーターであり、依頼を受ける側ではありますが、
仮に自分が誰かに作曲をお願いすることになったとしたら。
音楽なんて全然分からない私は同様の不安に襲われます。
提出された曲にフィードバックを求められても、よく分からず、遠慮して、
「あ、あ〜、いいですねぇ……!」
といった、当たり障りのない無難な肯定をせざるを得ないかもしれません……
でもそんな状況、少しもったいないと思います。
イラスト制作とは、依頼者様とイラストレーターがお互いに意思疎通を重ねながら、一緒に完成へ近づけていく共同作業です。
ご依頼が始まった時点で、私たちは「一緒により良いものを作る仲間」です。
相手はプロだから……なんてどうか気後れしないでほしい。
「絵を見る目」なんて実は必要ありません。
フィードバックでお願いしたいのは「絵の良し悪しを評価すること」ではありません。
もちろん、専門的なご意見や改善案があれば、それも歓迎しています。
確認していただきたいことを一言で言えば
「依頼者様の意図を、イラストに翻訳できているか?」です。
この記事では、私へご依頼いただく際の「依頼内容の伝え方」と「ラフへのフィードバック」についてご紹介します。
※制作の進め方はイラストレーターによって異なります。この記事は、私へご依頼いただく場合の進め方としてご覧ください。
●制作の流れ
まず制作は、おおまかに次のような流れで進みます。
お問い合わせ
↓
内容の確認・お見積もり
↓
必要に応じて打ち合わせ
↓
正式なご依頼
↓
大ラフ
↓
ラフ
↓
清書
↓
納品
この中で、依頼者様に特にご協力いただきたいのが、「依頼内容を伝えること」と「大ラフやラフへのフィードバック」です。
ここからは、この2つについてご説明します。
●依頼内容は、どんな形で伝えても大丈夫です
「イラストを依頼するなら、資料はちゃんと作らないといけない」
そんな心配は必要ありません。
「絵心ないので棒人間すら描けない」
問題ありません。
テキストだけでも構いませんし、紙に描いた簡単なラフ、PowerPoint、参考写真、AIで作成したイメージ画像など、どんな形でも大丈夫です。
※AI生成画像の使用についてはイラストレーターごとに考え方が異なります。私の場合は参考資料としてご利用いただいて問題ありません。
私が知りたいのは、資料の完成度ではありません。
一番知りたいのは、
「何を伝えたい企画なのか」です。
例えば、
・一番見せたいもの
・誰に向けた企画なのか
・見た人にどんな印象を持ってほしいか
・企画で一番大切にしたいこと
こうした内容を教えていただけると、「どう描けば伝わるか」を考えやすくなります。
子ども向けなのか、大人向けなのか分かるだけでもイラストの方向性は大きく変わります。
自主制作ですが、実際に私が制作した展示会ポスターを例にご紹介します。
この昆虫展では、「狩り」をテーマにしました。
構想段階では、画面手前のチョウはカマキリに捕らえられ、ぐちゃぐちゃになっている場面の選択肢もありました。
「狩り」、つまり命のやりとりの中の、残酷ではあるものの、真実味があるシーンであり、私自身は、この案も「狩り」というテーマがよく伝わる構図だと感じていました。
しかし、この展示会の対象は親子連れを想定しており、また駅前や街中などの広告展開も考慮したとき、あまりグロテスクすぎるのは狙いとズレると判断して、最終的に「今まさに襲いかかる!」とワクワクできる形になりました。
このように、同じ「昆虫展」というテーマでも、「誰に向けた企画か」が変われば、イラストの最適解も変わってきます。
企画の方向性といった情報も、打ち合わせやフィードバックを通して共有できればと思います。
私は、
「イラストは企画の意図を翻訳するツール」
だと考えています。
依頼者様の頭の中にある企画やイメージを、見る人へ伝わるイラストへ翻訳することが、私の仕事です。
そのため、「こう描いてほしい」だけでなく、
親近感を持ってほしいのか、こわがってほしいのか、ワクワクしてほしいのか……
そんな「見る人にどう伝わってほしいか」を教えていただけると、その意図をイラストへ翻訳しやすくなります。
●フィードバックは「ダメ出し」ではありません
制作が始まると、大ラフやラフをご確認いただきます。
このとき、
「プロにダメ出ししてもいいのかな」
「修正をお願いするのは申し訳ない」
と遠慮される方も少なくありません。
ですが、私はラフへのフィードバックを「ダメ出し」だとは考えていません。
ラフをご確認いただく目的は、
「こちらはこう伝えたつもりですが、ちゃんと伝わっていますか?」
を確認することです。
イラストを評価する時間ではなく、お互いの認識をすり合わせる時間です。
言い換えれば、
ラフは「翻訳結果」。
フィードバックはその確認です。
「依頼者様から伺った企画を、私なりにイラストへ翻訳しました」
その翻訳が意図どおり伝わっているか、一緒に答え合わせをする工程だと考えています。
●イラストを評価する必要はありません
依頼者様にお願いしたいのは、イラストの技術的な良し悪しを評価することではありません。
「構図が悪い」
「遠近感がおかしい」
「もっとライティングを……」
なんて、そんな専門的なことを考えていただく必要はありません。
繰り返しますが、フィードバックに「絵を見る目」は関係ありません。
代わりに教えていただきたいのは、
「どう感じたか」です。
例えば、
「思ったより怖く感じました」
「背景の方へ目が行きました」
「もっと楽しそうな雰囲気を想像していました」
「少しごちゃごちゃして見えました」
「主役が分かりづらく感じました」
こうした感想は、とても価値のあるフィードバックです。
なぜなら、その率直な感想はそのまま展示会のポスターなどを見た人たちの感想そのものだからです。
むしろ「絵を見る目」、絵心なんてない方がいいかもしれません。
駅前やSNSなどでそのイラストを見る人のほとんどは専門知識なんて持っていないんですから。
逆にイラストレーターは専門知識があるばかりに、時に客観視できなくなることもあります。自分の手がけた作品なら特に。
率直な印象が知りたい。
これがイラストレーターがフィードバックを求める理由なのかなと思います。
それに、依頼者様だから気づけることがあります。
イラスト制作に夢中になるあまり、構図を複雑にしてしまったり、不要な情報を増やしてしまったり……そんな自分では気づきにくい「ノイズ」が入り込むこともあります。
奇を衒ったり色気づいたりすることが功を奏してイラストの質が上がる場合もありますが、それが裏目に出ることもあります。
それに制作中のイラストレーターは、何時間、何十時間と同じイラストを見続けています。
そのため、どうしても絵を見慣れてしまいます。
ですが、依頼者様は初めてそのラフをご覧になります。
だからこそ、
「背景が気になる」
「なんとなく見づらい」
「思ったより怖い」
「最初に主役が目に入らなかった」
そんな第一印象に気づくことができます。
その違和感は、依頼者様だからこそ気づける、とても大切な情報です。
「なんとなく気になる」
「なんかパッとしない」
それだけでも十分なフィードバックになります。
パッとしないなら、華やかさ、派手さが足りないのかな……なんて考えることができます。
●フィードバックの例
例えば、親子向けの恐竜の展示会ポスターを制作しているとします。
私(イラストレーター)
「親子でワクワクする展示になるような雰囲気を目指して制作しました。ご確認をお願いいたします」
依頼者様
「ありがとうございます。
楽しそうな雰囲気は伝わりました。
ただ、思っていたより恐竜が少し怖く感じました。
もう少し小さなお子さまでも入りやすそうな印象になると嬉しいです」
このフィードバックには、「こう直してください」という指示はありません。
ですが、「怖く感じた」という感想をもとに、私は表情や色味、構図など、どこを調整すれば企画の意図へ近づくかを考えることができます。
「どう直すか」を考えるのは、イラストレーターの仕事です。
依頼者様には、「どう伝わったか」を教えていただければ十分です。
もちろん、こうすれば良くなるかもといったご意見も歓迎しています。
●最後に
私は、イラスト制作を「企画の意図を翻訳する仕事」だと考えています。
依頼者様は、「何を伝えたいか」を教えてください。
私は、「どう描けば伝わるか」を考えます。
そしてラフでは、「ちゃんと伝わっていますか?」を一緒に確認します。
この役割分担ができると、企画の意図はより正確に見る人へ届くようになります。
ラフのフィードバックは、プロにダメ出しをする時間ではありません。
企画の意図をより正確に翻訳するための、大切な意思疎通の時間です。
どんな小さな違和感や感想でも、ぜひお気軽にお聞かせください。
一緒に、より良いイラストを完成させていければ嬉しく思います。






